とろみ剤の使い方マニュアル 誤嚥(ごえん)を防ぐために

嚥下(えんげ)機能が低下した高齢者にとって、水やお茶などのサラサラした液体はむせや誤嚥の原因になります。これを防ぐために使うのが「とろみ剤」です。ただし、とろみは濃ければよいというものではなく、濃すぎるとかえって喉に張り付いて危険です。
この記事では、とろみの3段階の目安、正しいつけ方(2度混ぜ)、失敗しないコツまでを解説します。食事介助全体の姿勢や進め方は食事介助の手順・方法、むせ・窒息時の対応は高齢者の誤嚥・窒息時の緊急対応マニュアルもあわせてご覧ください。
嚥下障害のある高齢者にとって、安全な食事は生命維持に直結する重要なケアの一つです。介護現場では、誤嚥による肺炎や窒息を防ぐために「とろみ剤」が積極的に活用されています。しかし、とろみ剤の選び方や使い方を誤ると、かえって危険を招く恐れもあります。本記事では、介護職やリーダー層を対象に、とろみ剤の基礎知識から、現場での活用方法、誤嚥予防に向けたとろみの判断基準まで、専門的な視点で解説します。日々のケアの質を高めるための実践的な知識として、ぜひご活用ください。
高齢者や介護施設で「とろみ剤」が使われる理由
高齢者介護の現場では、飲み込み(嚥下)機能が低下した利用者に対して「とろみ剤」が広く使用されています。嚥下障害は、脳卒中後の後遺症、加齢、パーキンソン病などの神経疾患、認知症など、さまざまな要因で発症します。特に誤嚥性肺炎のリスクは高く、予防的対応としてとろみ調整は欠かせない手段となっています。
とろみ剤を用いることで、液体の流動性をコントロールし、誤嚥のリスクを軽減することが可能になります。水やお茶などのさらさらとした飲み物は、喉頭蓋が閉じる前に気道へ流れ込みやすく、誤嚥を引き起こしやすい性質があります。とろみをつけることで、飲み物が喉を通る速度がゆっくりになり、嚥下反射が間に合うよう調整できるため、安全な経口摂取を支える有効な手段となっています。
つるりんこ、トロミアップなどのとろみのもとの成分
市販されているとろみ剤には、「つるりんこ」、「トロミアップ」など様々な製品があり、それぞれに異なる増粘成分が用いられています。とろみ剤の主成分には、大きく分けて「でん粉系」と「増粘多糖類系(ガム系)」の2種類があります。
| 商品名 | 主な成分 | 特徴 |
|---|---|---|
| デキストリン、キサンタンガム、乳酸カルシウム、クエン酸三ナトリウム | 比較的すばやくとろみがつく、安定性が高い | |
| デキストリン、増粘剤(増粘多糖類、CMC)、グルコン酸Na、塩化Mg | 水分全体に均一にとろみがつきやすい、分離しにくい |
でん粉系のとろみ剤は味や風味の変化が少ない一方で、時間経過により粘度が変化しやすく、唾液により分解されてしまう欠点もあります。
一方、増粘多糖類系(ガム系)は安定性に優れ、冷たい飲み物にも均一にとろみがつけられますが、やや風味が変化する場合があります。施設の現場では、利用者の嚥下機能や好みに応じて使い分けることが求められます。
とろみ剤でのとろみをつける判断基準
とろみをつける際には、医師や言語聴覚士(ST)の評価に基づいた嚥下機能のアセスメントが重要です。とろみの程度には一般的に「薄いとろみ」「中間のとろみ」「濃いとろみ」の3段階があり、それぞれのとろみの粘度は目安として以下の通りです。
| とろみの分類 | 粘度の目安(mPa・s) | 特徴と用途 |
|---|---|---|
| 薄いとろみ | 約50〜150 | スプーンから流れる程度。軽度の嚥下障害に対応 |
| 中間のとろみ | 約150〜300 | ゆっくりと流れる。誤嚥のリスクが中等度の利用者向け |
| 濃いとろみ | 約300〜500 | スプーンで盛り上がる粘度。重度の嚥下障害者向け |
これらの基準はJSDR(日本摂食嚥下リハビリテーション学会)のとろみ基準などをもとにした目安であり、現場ではSTの指導や介護職の観察記録が判断材料になります。
介護場面でのとろみ剤でのとろみの使い方・付け方
介護施設におけるとろみの運用例として、以下のような飲料別の調整が行われることがあります。
| 飲み物 | 適応されるとろみの程度 | 理由と配慮点 |
|---|---|---|
| 水・お茶 | 中間〜濃いとろみ | 非常に流動性が高く、誤嚥リスクが高いため |
| 味噌汁(具なし) | 薄い〜中間のとろみ | 温度が高くとろみが安定しづらい。塩分も影響あり |
| 牛乳・ジュース | 薄い〜中間のとろみ | 粘性がもともとあるため、少量のとろみでも効果あり |
| ポタージュ | とろみなし〜薄いとろみ | すでに粘度が高いが、嚥下評価により追加とろみを判断 |
このように、飲み物や食事の種類によって必要なとろみの程度は異なり、画一的な運用ではなく、個別の嚥下アセスメントと継続的な評価が重要となります。
誤嚥(ごえん)とは何か?
誤嚥とは、本来であれば食道を通って胃に向かうべき飲食物や唾液、胃内容物が、誤って気道に入ってしまう現象を指します。高齢者や嚥下機能が低下した方に多く見られ、無症状で気づかれにくい「不顕性誤嚥(silent aspiration)」も存在します。
誤嚥によって気管支や肺に異物が入り込むと、肺炎の原因となるほか、窒息のリスクもあるため、重篤な健康被害を招く可能性があります。特に「誤嚥性肺炎」は高齢者における死亡要因の一つとなっており、介護現場では早期発見と予防的対応が不可欠です。
とろみ剤の活用は、こうした誤嚥リスクを低減するための第一歩であり、単なる「食事の工夫」ではなく、利用者のQOL(生活の質)と命を守るための「嚥下ケア」の一環として位置付けられるべきです。

とろみの3段階|学会分類による濃度の目安
日本摂食嚥下リハビリテーション学会の分類(嚥下調整食分類2021)では、とろみを「薄いとろみ」「中間のとろみ」「濃いとろみ」の3段階に分けています。測定器がなくても、見た目や飲み込みやすさで判断できます。
| 段階 | 状態の目安 | 向いている方 |
|---|---|---|
| 薄いとろみ | 口の中で広がる。ストローで簡単に吸える。スプーンを傾けるとすっと流れる | 軽度の嚥下低下 |
| 中間のとろみ | すぐには広がらず舌の上でまとめやすい。ストローは吸いにくい。スプーンでトロトロ流れる | 中等度の嚥下障害(最も多く使われる) |
| 濃いとろみ | まとまりがよく、送り込むのに力がいる。ストロー不可。スプーンで形が保たれる | 重度の嚥下障害 |
どの濃度が適切かは、言語聴覚士(ST)・医師・看護職が嚥下の状態をみて判断します。自己判断で濃くしすぎないことが大切です。
とろみ剤の正しいつけ方|「2度混ぜ」の方法
とろみ剤はダマ(かたまり)ができやすいため、混ぜ方が重要です。学会でも推奨される「2度混ぜ」を基本にしましょう。
- 飲み物にとろみ剤を入れ、すぐに30回以上しっかりかき混ぜる。
- 5〜10分ほど置いて、とろみを安定させる。
- もう一度30回以上かき混ぜて濃度を確認する。
とろみのつけすぎは逆に危険
「濃いほど安全」と思われがちですが、これは誤りです。とろみが強すぎると粘度が増して口やのどに張り付き、かえってむせや誤嚥、窒息の原因になります。また、べたつきで口の中に残り、不快感や食欲低下にもつながります。適切な濃度を守ることが安全につながります。
ダマや時間経過に注意
- とろみは時間が経つと強くなります。作り置きせず、飲む直前に作るのが基本です。
- つけすぎたからと水で薄めたり、後からとろみ剤を追加したりするとダマができます。失敗したら調整せず作り直します。
- 牛乳・濃厚流動食・酸味の強いジュースなどは、とろみがつきにくい・つきすぎることがあり、種類に応じて量を調整します。
とろみ剤の種類
現在主流のとろみ剤は、無味無臭でダマになりにくい「キサンタンガム系」が多く使われています。製品によって必要量や固まる速さが異なるため、施設で使うとろみ剤の説明書を確認し、計量スプーンで正確に量ることが大切です。
口腔ケア・食事介助との連携
とろみをつけた飲食物は口の中に残りやすいため、食後の口腔ケアがより重要になります。口腔ケアの手順・方法とあわせて行い、誤嚥性肺炎を防ぎましょう。経口摂取そのものが難しくなった場合のケアは経管栄養関係で介護職員ができること・できないことを、食欲低下時は高齢者が食事を食べない原因と介護現場での対応をご覧ください。
とろみ剤に関するよくある質問
Q. 全員にとろみをつけたほうが安全ですか?
A. いいえ。不要な方にとろみをつけると飲みにくく、水分摂取量が減って脱水を招きます。必要な方に、適切な濃度で使うことが原則です。
Q. 味噌汁やお茶以外にもつけられますか?
A. はい。水・お茶・ジュース・汁物のほか、必要に応じてさまざまな飲食物に使えます。ただし種類によってつき方が違うため、濃度を確認しながら調整します。
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利用者負担軽減の仕組みの改定
補足給付(負担限度額認定)に関わる見直しは、以下のとおりです。
令和6年8月1日施行 基準費用額の見直し
令和7年8月1日施行 多床室の室料負担
令和8年8月1日施行 食費基準費用額の1,445円→1,545円、低所得者の食費負担限度額の段階別変更



