高齢者が食事を食べない原因と介護現場での対応|6つのケースと観察・報告のポイント

高齢者が食事を食べない原因と介護現場での対応|6つのケースと観察・報告のポイント

「宅配弁当を届けているのに毎日残っている」

「食欲がないわけではなさそうなのに食事が進まない」

介護施設や在宅介護の現場で、こうした場面に直面したことがある介護職員は多いと思います。

高齢者が食事を食べない理由は「食欲がない」だけではありません。原因を正しく把握しないまま「もっと食べてください」と声がけするだけでは解決しないどころか、本人の尊厳を傷つけることにもなりかねません。

この記事では、デイサービスの管理者・機能訓練指導員・ケアマネジャーとして介護現場で実際に経験したケースをもとに、高齢者が食事を食べない6つの原因と具体的な対応方法を解説します。

なぜ「食べない理由を把握する」ことが重要なのか

食べない理由を把握する

介護現場では「食事摂取量が少ない」という事実だけが記録され、原因の把握が後回しになることがあります。しかし食事摂取量の低下は低栄養・体重減少・筋力低下・免疫機能の低下という連鎖を引き起こし、在宅生活や施設生活の継続を困難にする深刻なリスクです。

「食べない」という行動の背景には必ず理由があります。その理由によって対応方法は全く異なるため、まず観察・アセスメントを行うことが介護職員として最初にすべきことです。

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原因① 認知症により「自分の食事」とわからなくなる

認知症の症状として、目の前にある食事が自分のものだと認識できなくなることがあります。「誰かのものを勝手に食べてはいけない」という意識が働き、手をつけられなくなるケースです。

デイサービスで管理者をしていた頃、軽度の認知症がある独居の女性利用者がいました。週3回デイサービスに通い、それ以外の日は訪問介護と宅配弁当を利用していました。デイサービスでは施設の調理師が作った温かい食事をほぼ完食していましたが、送迎で自宅にお送りすると宅配弁当をかなり残していることが多く、日によっては全く手をつけていないこともありました。

ご本人に確認すると「私のご飯かどうかわからなかった」「食べていいのかわからなかった」という答えが返ってきました。食欲がないわけではなく、認知症による混乱が原因でした。

この方への対応として、宅配弁当業者・訪問介護・デイサービスが連携して以下の工夫を行いました。

・弁当容器に日付とお名前を書いた紙を貼る

・カレンダーをわかりやすい場所に置き、デイサービスや訪問介護が来るたびに印をつける

・食事の声がけをルーティン化する

こうした工夫を積み重ねることで食事摂取量は改善されました。

介護職員の観察・対応ポイント

食事を残している場合は「食欲がない」と決めつけず、「食事に手をつけていない」のか「途中で止まっている」のかを区別して観察することが重要です。認知症の方に対しては「○○さんのお食事ですよ」という声がけと、食事を本人の目の前で配膳する工夫が効果的です。施設での申し送りと多職種への情報共有も忘れずに行いましょう。

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原因② 味覚・嗅覚障害で「味がしない」

「味が薄い」「味がしない」という訴えで食事が進まないケースがあります。単なる好みの問題と判断して調味料を足すだけでは解決しないことがあります。

あるケースでは塩や醤油をかけたり好みのご飯のお供を添えたりしましたが、それでも「味がしない」と言って食が進みませんでした。病院を受診してもらったところ鼻に異常があることが判明し、治療後は嗅覚が回復して食事摂取が改善しました。

高齢者の味覚・嗅覚障害の原因としては以下が考えられます。

・亜鉛不足(味蕾の機能維持に亜鉛が必要)

・薬の副作用(複数の薬を服用している高齢者に多い)

・鼻腔・副鼻腔疾患

・口腔内の乾燥・口腔疾患

・認知症による味覚認知の変化

介護職員の観察・対応ポイント

「薄い」「味がしない」という訴えが続く場合は、調味料で対応しようとせず看護職員・管理者に報告し、必要であれば医療機関への受診につなげましょう。口腔ケアの徹底が味覚改善につながるケースもあります。

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原因③ 嚥下機能の低下で「飲み込めない・怖い」

嚥下機能が低下すると、食事中にむせ込んだり食べ物が喉に詰まる感覚が生じたりします。食べることへの恐怖心から食事量が減っていくケースは介護現場では非常に多いです。

食形態をやわらかいものに変更し、とろみをつけることで改善したケースがありましたが、最初は本人が強く抵抗しました。「こんなドロドロのものは食べたくない」という気持ちは尊重すべきです。食形態を変えることは、本人にとって食べる楽しみの喪失という大きな心理的負担を伴います。

介護職員の観察・対応ポイント

食事中のむせ・咳き込み・食事時間の延長・食後の声の変化(湿性嗄声)は嚥下機能低下のサインです。観察した内容を具体的に記録して看護職員・管理者に報告しましょう。食形態の変更は自己判断で行わず、必ず言語聴覚士・医師・看護職員と連携して決定してください。食形態の種類と選び方については食事介助の手順・方法も参照してください。

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原因④ 痰が絡んで食事が喉を通らない

痰が絡んでいると食事中にむせやすくなり、食事への恐怖心や不快感から食が進まなくなります。サチュレーションが低下するほどではなく吸引が必要な状態ではないけれど、痰が絡んで食べにくいというケースが現場では少なくありません。

介護職員の観察・対応ポイント

食事前に深呼吸や軽い咳払いを促す・上半身を起こした姿勢で食事をする・水分を少し摂ってから食べ始めるなどの工夫が有効です。痰がらみが続く場合は呼吸器疾患・逆流性食道炎・口腔内乾燥などが原因である可能性があるため、看護職員への報告と口腔ケアの徹底を行いましょう。食事前の口腔ケアは唾液分泌を促し嚥下機能の改善にもつながります。

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原因⑤ 便秘による腹部不快感で食欲が出ない

「お腹が苦しくて食べられない」という訴えも介護現場では非常に多いケースです。食欲がないと言われると食事の内容や量ばかりに目が向きがちですが、排便の状況を確認すると数日間排便がない状態が続いているというケースが少なくありませんでした。

あるケースでは排便のリズムを確認したところ、数日間排便がない状態が続いていることがわかりました。内科の先生に相談して便通改善の内服薬を処方していただいたところ、少しずつ腹部の不快感が解消され食事を摂れるようになっていきました。

高齢者は腸の動きが弱くなりやすく、水分摂取量の減少・運動量の低下・食物繊維の不足が重なって便秘になりやすい状態です。さらに食事量が減ると腸への刺激が少なくなりさらに便秘が悪化するという悪循環に陥りやすいです。高齢者の便秘の原因と対応についてはこちらの記事も参照してください。

介護職員の観察・対応ポイント

食欲低下が続く場合は排便の状況を必ず確認してください。3日以上排便がない場合は便秘の影響が食欲に出ている可能性が高いです。看護職員・管理者に報告し、医師への相談につなげましょう。日常的な排便管理の記録は食事管理と同じくらい重要なポイントです。

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原因⑥ 入れ歯が合わず噛めない・怖くて食べられない

入れ歯が合わなくて食欲が低下するケースも介護現場では多いです。入れ歯がガタガタして噛みにくい状態だと食事のたびに不快感や痛みが生じます。さらに「入れ歯を飲み込んでしまうのではないか」という不安から食事への恐怖心が生まれることもあります。

こうした状態では食欲が出るはずもなく、気づけば柔らかいものや食べやすいものだけを選ぶようになり栄養が偏っていきます。

介護職員の観察・対応ポイント

食前の入れ歯装着確認は基本ですが、「入れ歯が合っているか」「痛みはないか」まで確認することが重要です。入れ歯の不具合は歯科受診で解決できることが多いです。施設入所者であれば訪問歯科診療の導入を管理者・生活相談員に相談しましょう。入れ歯が合うまでの間はやわらか食への一時的な変更を検討してください。

食事を食べない高齢者への観察・記録のポイント

食事摂取量が低下した際に観察・記録すべき項目をまとめます。申し送りや多職種への報告の際に活用してください。

食事場面の観察項目

・食事に手をつけていないのか、途中で止まっているのか

・食事中にむせ・咳き込みがあるか

・食後に声の変化(ガラガラした声)がないか

・食事にかかっている時間

・残している食品・食べている食品の傾向

・食事中の表情・発言(「味がしない」「お腹が苦しい」など

・入れ歯の装着状況・口腔内の状態 ・食事前後の覚醒状態

生活全般の確認項目

・直近の排便状況(いつ・量・性状)

・水分摂取量

・体重の変化

・服薬内容の変更の有無

・発熱・体調不良の有無

多職種連携で早期対応することが重要

食事摂取量の低下は介護職員だけで解決できる問題ではありません。観察した内容を適切に記録・報告し、看護職員・管理栄養士・言語聴覚士・医師・担当ケアマネジャーと連携して対応することが重要です。

特に体重が1ヶ月で2〜3kg以上減少している場合は低栄養の進行が疑われます。サルコペニア・フレイルとの関係についてはサルコペニア・フレイルとは?介護予防との関係と日常ケアでできることを解説も参照してください。

介護職員として大切なのは「食べない」という事実を記録するだけでなく、「なぜ食べないのか」という視点で観察し、気づいたことを多職種に伝えることです。その一報が利用者の状態改善につながることがあります。

まとめ

高齢者が食事を食べない原因は多岐にわたります。

・認知症による混乱(自分の食事とわからない)

・味覚・嗅覚障害(味がしない・薄い)

・嚥下機能の低下(飲み込みが怖い)

・痰がらみによる不快感

・便秘による腹部不快感

・入れ歯の不具合(噛めない・怖い)

これらはいずれも早期に気づいて対応することで改善できる可能性があります。介護職員として日々の食事場面の観察を丁寧に行い、気になることがあれば早めに多職種に報告することが在宅・施設を問わず高齢者の食事環境を守る第一歩です。在宅の場合には、食形態を調整したり、バリエーションのある食事を用意したりするのは大変なことですので、冷凍惣菜や宅配弁当なども選択肢になります。こちらの「高齢者が食事を食べない理由と対処法|介護現場で見てきた6つのケース(在宅介護ごはんナビ)」が参考になります。

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