介護保険事業者の請求業務にはどんな作業がある?

介護保険制度のもとで運営される介護サービス事業者にとって、介護報酬の請求業務は経営の要です。事業所が適正に収益を得るためには、介護報酬を国保連(国民健康保険団体連合会)へ正確に請求し、あわせて利用者からの自己負担分も的確に徴収する必要があります。本記事では、介護保険事業者に求められる請求業務の内容について、主に「介護報酬請求(レセプト作成)」と「利用者への請求書発行」の二点を中心に解説します。

請求業務の主な作業一覧

まずはじめに介護保険の事業で請求というとどんなことがあるのかについて全体像をまとめておきます。

作業内容 説明 担当者の主な役割
サービス実績の確認 提供票・介護記録などから1か月分の実績を確認 記録担当者、管理者
実績データの入力 介護請求ソフトに実績を入力(加算・減算要件も反映) 事務職員、請求担当
レセプト作成・確認 単位数・利用日数・加算・摘要欄の内容などを最終チェック 請求担当、管理者
国保連への電子請求 毎月10日までに電子請求ファイルを送信 請求担当
返戻・減算対応 返戻理由に基づき修正・再請求など対応 請求担当、管理者
自己負担額の計算 利用者の負担割合(1〜3割)と保険外サービス費用を計算 事務職員
請求書・領収書の作成・送付 請求金額の明記、送付、受領後の領収書発行 事務職員
入金管理 入金の有無確認、未納者への案内・相談対応 事務職員、相談員
帳簿・会計処理 入金記録・請求記録を台帳や会計ソフトに反映 経理担当、事務職員

介護報酬請求(レセプト作成・国保連請求)の流れ

介護報酬請求は、事業者が提供したサービスの対価を介護保険制度に基づいて公的に請求する業務です。基本的には、以下のような手順で行われます。

サービス実績の記録と確認

介護職員や看護職員が日々記録する介護記録やサービス提供票をもとに、どの利用者にどんなサービスを提供したかを月ごとにまとめます。実績の正確さが請求の根拠となるため、記録漏れや誤記がないよう確認が欠かせません。

介護ソフトへの入力・実績の集計

専用の介護請求ソフトに実績データを入力し、単位数や加算などを含めた介護報酬を自動計算させます。

介護保険の請求を行う際には、請求担当者は提供している内容に対応したサービスコードを入力し、さらにそれに対して実施した日数や回数などを入力していくことになります。

そのため、請求を行う前に自分たちがどのサービスコードに基づいたサービスを提供しているのかをしっかりと把握しておくことが大切です。

ここで入力ミスや加算要件の不足があると、審査で返戻・減算、もしくは誤りで過誤請求となる原因となります。

 

レセプトの作成と国保連への電子請求

ソフト上で確認された内容をもとにレセプト(介護給付費請求書・明細書)を作成し、毎月10日までに国保連へ電子請求を行います(原則として毎月1回)。審査結果は翌月末頃に通知され、不備があれば返戻対応が求められます。

返戻・減算対応と再請求

返戻があった場合にはその内容を確認し、必要に応じて修正・補足資料の提出・再請求を行います。複雑な加算要件などでは、返戻が続くこともあり、制度理解と丁寧な対応が不可欠です。

介護報酬請求における返戻のよくある理由

返戻理由 内容の説明
サービス提供日数や回数の過不足 実績と予定が合わず、上限を超えている/足りない日数・回数がある
加算要件の不備 特定加算の算定条件(配置要件・研修受講など)を満たしていない
誤ったサービスコード サービス種別・内容に対して誤ったコードが使われている
利用者情報の不整合 利用者番号や負担割合などが誤っている/マスタ情報の更新漏れ
サービス提供票・実績票の不一致 予定票と実績票の内容が異なる、または未作成
過誤申請処理が完了していないままの再請求 修正中の請求があるにもかかわらず、新たに同月分を請求している
同一利用日に重複請求 複数のサービス事業所で同日に重複請求がされている(訪問介護と通所など)
記録の不備による根拠不足 記録の未作成または不明確な内容により請求の正当性を証明できない

 

利用者への請求書の作成と徴収

介護保険の利用者は原則1割(一定所得者は2〜3割)の自己負担があるため、事業者は公費とは別に、利用者やその家族に対して請求書を発行します。

自己負担分の算出

国保連に提出したレセプトに基づき、自己負担割合(1〜3割)に応じた利用者負担額を計算します。この際、食費・居住費・日常生活費など保険外サービスの料金も合わせて請求する場合があります(特に施設系サービス)。

請求書・領収書の発行と送付

毎月、確定した金額をもとに請求書を作成し、郵送や手渡し、あるいはWeb請求システムを用いて利用者または家族に送付します。支払いが遅延した場合の再通知や相談対応も、実務として必要です。

入金確認と帳簿処理

入金の確認後は、適切に会計処理を行い、帳簿への記録や未入金管理を行います。特にデイサービスや訪問介護などでは月ごとの利用者数が多いため、正確かつ効率的な対応が求められます。

請求業務に求められるスキル

介護事業者の請求業務では、単なる事務処理にとどまらず、介護報酬制度や加算要件への深い理解、制度改正への対応力、各種記録の正確性、利用者や家族との丁寧な金銭管理など、幅広い知識とスキルが必要です。また、厚生労働省による制度改正は頻繁に行われるため、常に最新情報の把握も欠かせません。

まとめ

介護保険事業者にとって、請求業務は単なる裏方作業ではなく、事業経営を支える基幹業務の一つです。介護報酬請求と利用者請求の両方を正確・迅速に行うことは、経営の安定化と信頼の構築につながります。今後も制度変更やICT化が進む中、事務職員や管理者の専門性がますます重要になっていくでしょう。