認知症の一人暮らしの方にとって、服薬管理は生活の中で大きな課題です。正しく薬を服用できないと、症状の悪化や副作用のリスクが高まります。本記事では、介護や看護の現場で認知症の方をサポートする際に知っておくべき服薬管理のポイント、そして介護職員と看護師が「できないこと」について、具体的な事例を交えながら解説します。
目次
看護師と介護職員(訪問介護)の役割
看護師は医師の指示に従って薬の調整を行い、副作用の確認など専門的な管理を担当します。一方、介護職員(訪問介護等)は日常的な見守りや服薬の声かけなど、利用者が薬を確実に服用できるようサポートします。
看護師と介護職員(訪問介護)ができないこと・やってはいけないこと
以下は、内服に特化した看護師と訪問介護員(介護職員)ができないことのリストです。働く時の役割は想像がつきやすいですか、実際にご利用者にサービスや支援を提供する中では以下のようなケースに遭遇することが多いのでできないことややってはいけないことをしっかり理解しておきましょう。
項目 | 看護師ができないこと | 訪問介護員ができないこと |
---|---|---|
薬の処方・変更 | 医師の指示なく独自に薬を処方・変更すること | 処方箋に基づかず薬を用意・変更すること |
薬の調整 | 自身の判断で薬の用量や服用スケジュールを変更すること | 飲み忘れ防止で複数回に分けて薬を与えること |
飲む・飲まないの判断 | 自らの判断で薬の服用を中止・再開すること | 状況判断で「今日は薬をやめておきましょう」と提案すること |
粉砕・カット | 医師・薬剤師の指示なく薬を粉砕・カットすること | 利用者が飲みにくいからと勝手に薬を砕くこと |
服薬管理の具体的な方法
服薬カレンダーやピルケースの活用
利用者が薬の服用を忘れないように、服薬カレンダーを用意することは非常に効果的です。カレンダーには服用時間と薬の種類を記載し、日付ごとに飲み終えたか確認できるようにします。また、ピルケースは朝・昼・夕・寝る前など時間帯ごとに分けておくと、誤って飲み忘れや重複服用を防ぐことができます。
一包化された薬の活用
薬局で薬を一包化してもらうことで、利用者は「この袋を一度に飲めばよい」という安心感を持てます。介護士は、服薬の際に一包化された薬を利用者に手渡し、「これが今日の薬です」と確認することで飲み忘れを防ぎます。
服薬管理における注意点と声かけの工夫
認知症の方は薬を嫌がることがあります。その場合、介護職員は優しく声をかけることで、服薬に対する抵抗感を和らげます。
薬そのものを嫌がっている場合、医師や薬剤師に相談して、薬を減らすことができないかや、見た目が薬っぽくない形状で処方してもらえないかなどを確認すると良いでしょう。
また、嚥下(えんげ)が難しい場合は、ゼリー状の食品に薬を混ぜるなど、飲みやすい工夫をすることもありますが、必ず医師や薬剤師に確認を取りましょう。在宅で生活しているご利用者の場合には、介護保険の居宅療養管理指導などで薬剤師が定期的に管理指導を行っているケースもあります。その場合には事前に担当している薬局や薬剤師を確認しておき、飲みにくい薬や薬が飲めない場合にはどのようにしたらよいかについて実際に起こり得ることを確認しておく方が良いでしょう。薬剤師に聞いて薬剤師が判断できない場合には医師に確認してもらうということもありえます。実際に起きた時に確認してもすぐに確認できない場合もあるので、限られた時間の中で支援を行うことを考えると想定されることについては事前に確認しておくことをおすすめします。
看護師による服薬管理のポイント
看護師は、利用者の体調を把握しながら薬の効果や副作用を確認する役割があります。例えば、薬を服用しているのに効果が現れない場合や、副作用が疑われる場合には、迅速に医師に報告し、適切な処置を行います。また、定期的な訪問時に利用者の薬のストックを確認し、不足している場合は医師や家族と連携して早めに対応することが重要です。
介護職員が注意すべきポイント
介護職員は薬の種類や服用時間をしっかり把握し、利用者が薬を正しく服用しているかを確認します。しかし、介護士は薬の内容を変更したり、勝手に調整することはできません。例えば、「薬を飲みづらいと言われたから」といって、薬を粉砕することは絶対に避けてください。在宅で生活している場合には薬剤師が管理指導していることもあるので、事前に粉砕して良いかや飲みにくいので粉砕して処方してもらうことができないかなど自己判断せずに薬剤師・医師に確認しましょう。薬の形を変えてしまうということについては医師や薬剤師の判断が必要な行為です。
粒が飲みにくいからと言って自己判断で粉砕してしまったりして形状を変えてしまうと、医師や薬剤師が処方した内容以上に内服した時に吸収が早まってしまったり、薬の効果が変わってしまう恐れがあるため、必ず確認・相談しましょう。例えば、糖尿病の薬や血圧の調整の薬などで、粒にしておくことでゆっくりと作用する薬だった場合、勝手に粒を粉のように粉砕してしまうと一気に作用をして急変してしまうなどのリスクもありえます。その場合に責任が介護職員にかかってきてしまうこともあるのでこのようなことはやめておきましょう。
複数の薬を飲む場合の工夫
認知症の方は複数の薬を飲むことが難しい場合があります。そこで、服薬アラームを設定するなど、薬を飲むタイミングを知らせるツールを使うと良いでしょう。たとえば、スマートフォンや専用の服薬アラームは決まった時間になると音で知らせてくれます。介護士は、これらのアラーム機器の使い方を利用者に丁寧に説明し、実際に一緒に使いながら慣れてもらうと効果的です。
服薬管理に役立つ表の活用
介護現場では、服薬スケジュールを表にまとめることで利用者と共有することが重要です。
時間帯 | 薬の種類 | 飲み方 | 注意点 |
---|---|---|---|
朝 | 薬A、薬B | 水で飲む | 食後30分以内 |
昼 | 薬C | 水で飲む | 食事と一緒に |
夜 | 薬D | 水で飲む | 就寝前 |
このような表を活用すると、利用者自身が薬の管理を把握しやすくなり、介護士もサポートがしやすくなります。
まとめ
一人暮らしの認知症の方の服薬管理は、看護師と介護職員の連携が不可欠です。看護師は薬の調整や指導を行い、介護士は見守りと声かけを通じて利用者をサポートします。薬の正しい服用を継続することで、利用者の生活の質を向上させることができます。