介護の事故報告書の書き方・記入例(厚生労働省様式) 転倒事故の例

介護の現場において、事故は想定外の出来事として突然発生する可能性があります。その際の正確かつ迅速な報告は、再発防止や利用者の安全確保、関連者への情報提供のために極めて重要となります。この記事では、介護事故報告の標準的な書き方を、具体的に「転倒事故」を例に、厚生労働省の様式に従い詳しく説明しています。初めて事故報告書を作成する方や、書き方に迷っている方の参考として、実際の記入例も併せて掲載しています。

事故報告は、ただの手続きではなく、今後の事故を防ぐための学びとなる重要なプロセスです。この記事が、その一助となり、より安全な介護サービスの提供に役立てられることを願っています。

目次

介護での事故報告書(無料でダウンロードできる厚生労働省様式)

介護施設・介護サービスでの事故報告書については、一定のレベル以上の事故が発生した場合には速やかに各自治体に報告することとなっていますが、各自治体でそれぞれ違った様式を使っている状況が令和3年まで続いていました。厚生労働省は、令和3年3月に自己報告の標準化を図るため国において報告様式を作成しました。以下がそのエクセルファイルになります。

「令和3年度介護報酬改定に関する審議報告」(令和2年 12 月 23 日社会保障審議会介護給付費分科会)において、「市町村によって事故報告の基準が様々であることを踏まえ、将来的な事故報告の標準化による情報蓄積と有効活用等の検討に資する観点から、国において報告様式を作成し周知する」とされたことも踏まえ、介護保険施設等における事故報告の様式を別紙のとおり示すので、同様式の活用及び管内市町村や管内事業所への周知をお願いする。

介護保険施設等における事故の報告様式等について 厚生労働省老健局 令和3年 3 月 1 9 日

 

 厚生労働省の事故報告書(エクセルファイル)をダウンロード

 

介護の事故報告書 標準様式(エクセルテンプレート)市町村報告用

厚生労働省の事故報告書(事業者→○○市(町村))の大項目と前提の解説

厚生労働省の事故を報告書の様式は以下のような項目で構成されています。

  1. 事故状況
  2. 事業所の概要
  3. 対象者
  4. 事故の概要
  5. 事故発生時の対応
  6. 事故発生後の状況

事故報告書作成の留意点(対自治体)

第1報は、少なくとも1から6までについては可能な限り記載し、事故発生後速やかに、遅くとも5日以内を目安に提出すること
選択肢については該当する項目をチェックし、該当する項目が複数ある場合は全て選択すること

各事業所での事故報告書作成の留意点

各事業所、法人で事故報告書の作成についてルールを決めておきましょう。厚生労働省の事故報告書様式では「事故発生後速やかに、遅くとも5日以内を目安に」となっていますが、5日も経ってから作成するのでは通常遅すぎてしまいます。速やかに作成をするよう備えましょう。

また、この事故報告書様式は、国として介護中の事故の情報蓄積と有効活用等を考慮した様式となっているため、チェック項目が多いなど、ざっくりとした報告書様式となっています。各事業所においては、法人としての事故の詳細、発生原因や事故後の対策などを記録し活かせるように工夫した方が望ましいです。以下の記事では「介護事故防止対応マニュアルの観点 事故の種類と原因、対応事例」というテーマで記事が書かれておりポイントを把握しやすいです。

介護事故防止対応マニュアルの観点 事故の種類と原因、対応事例

それでは、介護での事故報告書(無料でダウンロードできる厚生労働省様式)について、ぞれの項目について詳しく見ていきます。

 

1.事故状況

介護での事故報告書の書き方・記入例(厚生労働省様式) 事故の状況、事業所の概要

事故状況の程度の書き方

事故状況の程度は、事故のレベルを大まかに「受診(外来・往診)、自施設で応急処置」「入院」「死亡」「その他」からチェックする形式になっています。

 

2.事業所の概要

事業の概要は、自分の所属する事業所の情報を記入します。

事業所の概要の記入例

【法人名】: 幸福介護サービス株式会社

【事業所(施設)名】: ひまわりの家

【事業所番号】: 1234567890

【サービス種別】: 通所介護

【所在地】: 東京都中央区日本橋1-2-3

 

3.対象者

介護での事故報告書の書き方・記入例(厚生労働省様式) 対象者(利用者)

対象者(利用者情報)の書き方

対象者(利用者情報)の項目では、氏名、年齢、性別、サービス提供開始日、保険者、住所、要介護度、認知症高齢者日常生活自立度を記入します。

認知症高齢者の日常生活自立度のランクについては「認知症高齢者の日常生活自立度の判定基準・覚え方・留意点」をご確認ください。

認知症高齢者の日常生活自立度の判定基準・覚え方・留意点

対象者の記入例

あくまでも一例ですが、対象者(利用者情報)の記入例です。

【氏名】: 佐藤 花子 様

【年齢】: 82歳

【性別】: 女性

【サービス提供開始日】: 2021年12月15日

【保険者】: 東京都港区 (介護保険被保険者証で保険者を確認できます。)

【住所】: 東京都港区銀座7-8-9

【要介護度】: 要介護1

【認知症高齢者日常生活自立度】: Ⅲa 「認知症高齢者の日常生活自立度の判定基準・覚え方・留意点」をご確認ください。

 

4.事故の概要

介護での事故報告書の書き方・記入例(厚生労働省様式) 事故の概要

事故の概要の書き方

事故の概要には、発生日時、発生場所事故の種別、発生時状況、事故内容の詳細、その他特記すべき事項を記入します。

「発生場所」については、居室(個室)、居室(多床室)、トイレ、廊下、食堂等共用部、浴室・脱衣室、機能訓練室、施設敷地内の建物外、敷地外、その他にチェックを入れる形式となっています。また、「事故の種別」については、転倒、異食、不明、転落、誤薬、与薬もれ等、その他、誤嚥・窒息、医療処置関連(チューブ抜去等)にチェックを入れる形式となっています。
自治体への報告としてはこちらの様式に沿って書きますが、「発生時状況、事故内容」や各法人で用意している様式などでで事故の起きた場所や状況の詳細がわかるように何階のどの部屋のどの辺りだったのかなど具体的なことも記しておいた方がよいでしょう。

事故の概要の記入例

【発生日時】: 2023年8月5日 10:45

【発生場所】: 廊下

【事故の種別】: 転倒

【発生時状況、事故内容の詳細】:
ひまわりの家 1階北側廊下を歩行中、床にこぼれた水滴を見落とし、転倒。右足を強く打ち、動かせなくなる。

【その他、特記すべき事項】:
事故発生場所の近くに給湯室があり、水滴の原因と思われる。

 

5.事故発生時の対応

介護での事故報告書の書き方・記入例(厚生労働省様式) 事故発生時の対応

事故発生時の対応の書き方

事故発生時の対応には、発生時の対応、受診方法、受診先(医療機関名 連絡先(電話番号))、診断名、診断内容、検査、処置等の概要があります。

発生時の対応は、時系列、関わった人、対応がわかるように書くとよいでしょう。

受診方法は、施設内の医師、(配置医含む)が対応、受診(外来・往診)、救急搬送、その他の項目で当てはまるものにチェックを入れる形式となっています。

診断内容は、切傷・擦過傷、打撲・捻挫・脱臼、骨折(部位)、その他の項目で当てはまるものにチェックを入れる形式となっています。

事故発生時の対応の記入例

【発生時の対応】: 10:48 利用者を安定した姿勢にし、看護師○○が右足の痛みの程度や他の怪我がないか確認。119番通報し、11:00 救急車で搬送。

【受診方法】: 救急車

【受診先】: 東京中央病院

【診断名】: 右足腓骨骨折

【診断内容】:X線撮影にて、右足の腓骨中央部に骨折が確認される。入院と手術が必要と診断される。

【検査、処置等の概要】:X線撮影、骨折部位の固定手術

 

6.事故発生後の状況

介護での事故報告書の書き方・記入例(厚生労働省様式) 事故発生後の状況

事故発生後の状況の対応の書き方

利用者の状況は、自由記載欄となっており、事故発生後の状況を記入します。この項目については、関係各所への連絡についても項目に含んでいることから、利用者がどんな状態をたどったのかの経過や処置、そして処置後の状況までの要点を時系列でまとめて置く形がよいかと思います。

家族等への報告については、配偶者、子、子の配偶者、その他の項目で当てはまるものにチェックを入れるものとなっています。

連絡した関係機関(連絡した場合のみ)については、他の自治体名、警察署名、その他名称への連絡を行ったかをチェックし、連絡先を具体的に記入します。

本人、家族、関係先等への追加対応予定では、どのタイミングで連絡をしたかや、連絡した相手、連絡した内容なども記載しておくとよいでしょう。

事故発生後の状況の対応の記入例

【利用者の状況】: 手術を受け、入院中。約2週間の入院予定。

【家族等への報告】: 事故発生後すぐに家族へ連絡し、状況を詳細に説明。病院への同行を依頼。

【連絡した関係機関】: ○○居宅介護支援事業所

【本人、家族、関係先等への追加対応予定】: 事故の原因となった給湯室の清掃の徹底と滑りやすい床への対策の導入。
利用者全員とその家族への事故説明と謝罪。
関連スタッフの安全教育の強化。

 

7.事故の原因分析(本人要因、職員要因、環境要因の分析)

7.事故の原因分析(本人要因、職員要因、環境要因の分析)、8.再発防止策(手順変更、環境変更、その他の対応、再発防止策の評価時期および結果等)、9.その他特記すべき事項

事故の原因分析(本人要因、職員要因、環境要因の分析)の書き方

事故の原因分析(本人要因、職員要因、環境要因の分析)は自由記載欄となっています。

事故の原因分析(本人要因、職員要因、環境要因の分析)の記入例

本人要因

身体状況: 高齢による運動機能の低下があり、特に左足に筋力低下が認められる。これが転倒のリスクを増大させていた。
注意力・知覚能力: 高齢者は注意力や知覚能力が低下しやすい。床の水滴を見落としたのも、その一因と考えられる。

職員要因

監視・指導の不足: 佐藤花子さんの左足の筋力低下の情報を知っていた場合、特にスリッピーな場所を通過する際のサポートや注意喚起が必要であった。
清掃の遅れまたは不十分: 給湯室の近くでの事故だったため、職員がこぼれた水を速やかに拭き取るなどの対応が取れていなかった可能性がある。

環境要因

施設内の清掃状態: 給湯室からの水滴が廊下に流れ出ていた可能性。定期的な清掃・チェックが不十分だったのか、または床が水を滑りやすくする材質である可能性が考えられる。
照明の問題: 廊下の照明が十分でない場合、床の水滴を見落としやすくなる。
滑り止め対策の不足: 特に水がこぼれやすい場所や、高齢者が頻繁に移動する場所には滑り止めのマットやテープなどの対策を施す必要がある。

 

8.再発防止策(手順変更、環境変更、その他の対応、再発防止策の評価時期および結果等)

再発防止策(手順変更、環境変更、その他の対応、再発防止策の評価時期および結果等)の書き方

再発防止策(手順変更、環境変更、その他の対応、再発防止策の評価時期および結果等)は自由記載欄となっています。

再発防止策(手順変更、環境変更、その他の対応、再発防止策の評価時期および結果等)の記入例

業務手順変更

定期的な巡回: 職員が施設内を定期的に巡回し、特に給湯室や他のリスクが予想される場所の確認を行う。
清掃手順の見直し: 給湯室を使用した後、すぐに床の水滴の確認と清掃を行うよう手順を明確化する。
利用者の健康状態チェック: 利用者の健康状態や移動能力を定期的にチェックし、それに応じたサポートを提供する。

環境変更

滑り止め対策: 給湯室の周辺や他のリスクエリアに滑り止めのマットやテープを配置する。
照明の改善: 廊下や特に事故が起きやすい場所の照明を明るくすることで、視認性を上げる。
給湯室の改修: 例えば、水がこぼれにくい構造に改修したり、水が溜まりにくい床材を選択する。

その他の対応

スタッフ研修: 事故の原因と再発防止策についての研修を定期的に行い、職員の意識を高める。
利用者への啓発: 事故リスクや注意点についてのポスターやチラシを作成し、利用者やその家族に配布する。

再発防止策の評価時期および結果等

評価時期: 事故後3か月、6か月での中間評価と、1年後の最終評価を実施。
評価内容: 再発防止策の適用後、新たな事故の発生有無、職員の意識や手順の実施度、環境の改善状況などを評価。
結果のフィードバック: 評価結果を元に、再発防止策の改善点や新たな取り組みを検討する。職員や利用者、関係者への報告と共有を行う。

 

9.その他特記すべき事項

その他特記すべき事項の書き方

「その他特記すべき事項」は、報告書において主要な項目に該当しないが、事故の理解や将来の対策の参考となる情報を記載する場所です。

その他特記すべき事項の書き方の記入例

以前の転倒経験: 佐藤花子さんは過去3年間に同じ施設内で転倒経験が1回ある。ただし、その際は軽傷で済んでいた。
移動支援器具の使用: 佐藤花子さんは通常、移動支援として歩行器を使用している。しかし、事故当時は歩行器なしで移動していた。
給湯室の状況: 事故前日に給湯室の給水器具が一部交換され、作業時に多少の水が床にこぼれていた可能性が考えられる。
他の利用者からの情報: 事故発生前、他の利用者から「廊下が少し濡れている」という情報が職員に伝えられていたが、具体的な場所や原因が特定されず、即時の対応が取られなかった。
佐藤花子さんの健康状態: 事故の2週間前には健康診断を受け、特に問題なく日常生活を送っていた。この事から、骨折リスクが高まるような骨粗しょう症などの既往症は確認されていない。

 

まとめ

転倒事故は介護施設における常時リスクの一つですが、佐藤花子さんの事例を通じて、事故の原因や再発防止策の重要性が浮き彫りとなりました。事故は本人の身体的要因だけでなく、職員の対応や施設の環境にも大きく関連しています。これらの要因を詳細に分析することで、より安全なサービス提供に繋げるヒントが得られます。施設の運営者やスタッフは、事故を真摯に受け止め、持続的な改善活動を進めることで、利用者の安全と信頼を確保する責務があります。