
レビー小体型認知症(DLB)は、現場で「認知症の中でも介護がやたら難しいやつ」として恐れられがちです。理由はシンプルで、記憶障害だけで勝負してこないからです。幻視、妄想、日内変動、レム睡眠行動障害、パーキンソニズム、自律神経症状……症状のセットメニューが多く、しかも日によって顔が違う。こちらの段取りが毎回崩れます。
ただ、だからといって「本人がわざと困らせている」わけではありません。教科書的にはこう説明できます。でも現場は、時間も人手も余裕もない。この記事では理想論も言いますが、最終的には「施設の現実で回る落としどころ」を、職員向けのマニュアル寄りで整理します。守るべきことと、仕事上のゆとりのためにやると良いことも分けて書きます。
目次
レビー小体型認知症とは何か
レビー小体型認知症は、脳内にαシヌクレインというタンパクがたまり「レビー小体」という異常構造が広がることで起こる神経変性疾患です。アルツハイマー型認知症が主に記憶障害から目立ちやすいのに対し、DLBは注意・覚醒のゆらぎ、幻視、パーキンソニズム、睡眠障害、自律神経症状が早い段階から出やすいのが特徴です。
診断の枠組みとしては、国際的にはDLB Consortiumの診断基準(2017年改訂)がよく参照されます。
中核的特徴として「認知機能の変動」「反復する具体的な幻視」「レム睡眠行動障害(RBD)」「自発性のパーキンソニズム」が挙げられ、これらの組み合わせで疑います(出典:McKeith IG, et al. Neurology. 2017)
介護現場では診断名を当てるのが仕事ではありませんが、「DLBっぽい時にやってはいけない対応」を知っているかどうかが、事故と離職を減らします。
レビー小体型認知症の進行速度と経過は、一直線ではなく「波で進む」
レビー小体型認知症の進行は、一直線に悪くなるというより「良い日と悪い日が波で来て、全体として下がっていく」イメージです。午前中は会話が成り立つのに、夕方に急に混乱が強くなる。昨日できた更衣が今日は全く無理。こういう変動が、職員側の認知負荷を上げます。「さっき言ったのに」「昨日できたのに」と言いたくなるのですが、そこは踏ん張りどころです。本人の怠慢ではなく症状の本体です。
平均的な予後や進行は個人差が大きく、併存疾患や転倒・肺炎などのイベントで一気に落ちることもあります。現場で重要なのは「急に悪化したように見える時に、病気の進行だと決めつけない」ことです。便秘、脱水、感染、薬剤(特に抗精神病薬や抗コリン薬)、睡眠不足、環境変化で、DLBは簡単にガタつきます。ここを拾えないと、介護計画をいくら作り直しても空回りします。
初期症状から末期症状まで、施設で見える「困りどころ」
初期に多いサイン:物忘れより先に出ることがある
初期から見えやすいのは、注意力の低下と変動、具体的な幻視、睡眠の異常、軽いパーキンソン症状です。例えば「見当識はそこまで崩れていないのに、急にぼーっとして反応が鈍い」「夜中に夢の内容に合わせて手足を振り回す」「廊下に子どもがいると言い張る」など。記憶障害が目立ちにくい人もいて、家族が「認知症というより精神的なものでは?」と迷うこともあります。
中期:幻視・妄想と転倒、ADL低下が同時進行しやすい
中期になると、幻視や妄想が介護抵抗と結びつきます。よくあるのは「職員を泥棒だと思い込む」「食事に毒が入っていると言う」「部屋に知らない人がいるから入れない」など。ここで正論(現実検討)をぶつけると泥沼化します。さらにパーキンソニズムで歩幅が小さくなり、方向転換で固まり、転倒が増えます。便秘や起立性低血圧も加わり、歩行・排泄が崩れていく。介助量が一段階上がりやすい時期です。
末期:寝てばかり、嚥下低下、せん妄の併発
末期では、強いパーキンソニズム、覚醒の低下、嚥下障害、誤嚥性肺炎のリスクが前面に出ます。いわゆる「寝てばかり」の状態になりやすく、褥瘡、拘縮、低栄養が課題になります。またDLBはせん妄を起こしやすく、感染や脱水が引き金で幻視・興奮が急激に増えることがあります。日中は眠り込み、夜に覚醒して徘徊・大声、という逆転も起こりがちで、夜勤者の心を折りに来ます。
DLBで介護が大変になる代表症状、具体例と意味づけ
幻視:本人には「見えている」ので、否定が地雷に
DLBの幻視は具体的で、「子ども」「動物」「知らない人」など形がはっきりしていることが多いです。本人は現実として体験しているので、「そんなものいません」は火に油です。例えば、夜間に「部屋に男がいる!」と訴え、職員が強い口調で否定すると、本人は「この人はグルだ」と解釈してしまうことがあります。以後のケアが全部こじれます。
レム睡眠行動障害(RBD):夢を現実にしてしまう
RBDは、睡眠中に夢に合わせて大声、殴る蹴る、起き上がるなどの行動が出る状態です。介護現場では「夜中に暴れる」「隣の利用者に手が出る」「ベッドから落ちる」という事故につながります。本人は覚醒していないことも多く、翌朝はケロッとしている場合もあります。だからこそ、叱っても意味がありません。安全設計と夜間対応のルール化が勝負です。
パーキンソニズム:動けないのに動こうとして転ぶ
動作緩慢、小刻み歩行、すくみ足、姿勢反射障害が出ると、本人は「いつも通り歩けるつもり」で立ち上がり、結果として転倒します。ここがアルツハイマー型の転倒と少し違う点で、DLBでは運動の質が急に悪くなる日があり、昨日の能力が当てになりません。移乗やトイレ誘導は「評価し直しながら」やる必要があります。
自律神経症状:便秘、排尿障害、起立性低血圧が地味に効く
便秘が続けば不穏が増えます。起立性低血圧があれば立位でふらつき、転倒し、失神もありえます。頻尿や尿閉があれば夜間の離床が増えます。これらは「性格の問題」ではなく身体症状です。ここを押さえると、問題行動が半分くらい減ることもあります。逆に言うと、ここを放置すると、精神症状に見えるものが増幅します。
アルツハイマー型認知症と比べて注意すべき点
アルツハイマー型認知症とDLBは、同じ「認知症」でも介護の作戦が変わります。DLBは「波」「幻視」「薬への過敏性」「パーキンソン症状」があるので、同じ声かけや同じ環境調整が通用しません。特に、精神症状に対する薬物治療が難しく、抗精神病薬で急激に悪化することがある点は、現場が絶対に知っておくべきです。
| 比較ポイント | レビー小体型認知症(DLB) | アルツハイマー型認知症 |
| 目立ちやすい初期症状 | 注意・覚醒の変動、幻視、RBD、軽いパーキンソン症状 | 近時記憶障害、見当識障害 |
| 日内変動 | 強いことが多い(良い日悪い日がはっきり) | 比較的なだらか |
| 転倒リスク | 高い(すくみ足、姿勢反射障害、起立性低血圧) | 中期以降に増えやすい |
| 幻視 | 具体的で反復しやすい | 進行後に出ることはあるがDLBほど典型的ではない |
| 薬剤への反応 | 抗精神病薬過敏性に注意(重い副作用リスク) | DLBほど典型的ではない |
| 介護のコツ | 否定しない、波を前提に段取りを柔らかく、身体症状の調整が鍵 | 見当識支援、生活史に沿った反復、環境整備 |
抗精神病薬過敏性については、DLBで抗精神病薬により錐体外路症状の悪化、強い鎮静、悪性症候群様の反応などが起きうることが知られています(出典:McKeith IG, et al. Neurology. 2017)。施設としては「勝手に薬の是非を判断しない」一方で、「DLBでは薬で事故が増える可能性がある」ことを前提に、医師へ具体的に状態を報告できる体制が必要です。
介護職員向け:レビー小体型認知症(DLB)対応マニュアル
まず守るべきこと1:幻視・妄想を「論破」しない
守るべきことは、本人の体験を正面から否定して戦わないことです。理想は受容と共感ですが、現場の落としどころは「否定しないで安全に着地させる」です。例えば「子どもがいる」と言われたら、「怖かったですね。こちらで見回りましょう」と言って一緒に確認し、照明を調整し、本人の安心できる場所へ誘導する。見回りを“手順化”しておくと、誰が対応してもブレにくくなります。
まず守るべきこと2:転倒予防は「歩行介助」より「立ち上がり前」の準備
DLBの転倒は、立ち上がりと方向転換で起きやすいです。守るべきは、立つ前に足底が接地できているか、椅子が高すぎないか、トイレまでの動線に物がないか、めまいがないかを確認することです。すくみ足がある人に「歩いて!」と急かすのは逆効果で、固まって前に倒れます。声かけは短く、リズムを作る方が通りやすいです。例えば「いち、に。いち、に」とテンポを出す、視線の先に目標を作るなど、パーキンソン病の歩行介助に近い工夫が役立ちます。
まず守るべきこと3:急変は「DLBのせい」と決めつけず身体要因を拾う
急に眠い、急に興奮、急に食べない、急に歩けない。こういう時に「進行でしょう」で片づけると、施設は事故ります。便秘、尿閉、発熱、疼痛、脱水、低血糖、薬の変更、睡眠不足、環境変化を疑ってください。特に便秘は軽視されがちですが、不穏の燃料です。排便状況を記録し、何日出ていないかをチームで共有できている施設は強いです。
余裕のためにやると良いこと1:日内変動を前提に「勝てる時間帯」に勝負する
理想は一日を均等に整えることですが、現場の落としどころは「調子の良い時間に重要ケアを寄せる」です。覚醒が上がりやすい午前に入浴や重要な処置を当てる、夕方以降は刺激を減らしてトラブルを起こしにくいルーティンにする。毎日同じでなくても構いません。DLBは波があるので、こちらも柔らかく組み替えた方が勝てます。
余裕のためにやると良いこと2:幻視トリガーの「光・影・反射・音」を潰す
幻視は、薄暗さ、影、カーテンの揺れ、テレビの音、鏡や窓の反射で増えやすいです。理想は個別に環境調整ですが、現場の落としどころは「よくある地雷を先に撤去」することです。夜間は足元灯を使い、廊下の照明を完全に落としすぎない。鏡を見て他人と誤認する人は、鏡を覆う。テレビは本人が不安定な時間帯は消す。これだけで、対応コールが減ることが普通にあります。
余裕のためにやると良いこと3:RBD・夜間興奮は「安全設計」を先に作る
夜間に暴れる人を、気合で止めるのは無理です。理想は医療連携で睡眠評価も含めた介入ですが、現場の落としどころは「怪我を減らす設計」を先に作ることです。ベッド周囲の硬い家具を遠ざける、転落時の衝撃を減らす、同室者の配置を検討する、ナースコールやセンサーの運用ルールを決める。夜勤者が毎回アドリブで戦う構造をやめないと、事故と離職が増えます。
余裕のためにやると良いこと4:服薬情報は「薬名」より「変更点」をチームで追う
薬の知識が薄い新人に「この薬は何mgで…」まで求めるのは酷です。一方で、変更点を追えないとDLBは崩れます。現場の落としどころは「いつ、何が、増えた・減った・中止になった」を申し送りと記録で追うことです。眠気が増えた、ふらつく、食欲が落ちた、便秘が悪化した。症状と薬変更の時系列がつながると、医師への報告の質が上がります。
場面別の対応、施設での声かけと介助方法
食事:「食べない」は嚥下だけでなく注意の波も疑う
DLBでは、覚醒が落ちているだけで食べられないことがあります。嚥下評価は当然重要ですが、まずは座位保持、意識レベル、口腔乾燥、薬の鎮静、便秘を確認してください。声かけは長い説明が逆効果になりやすいので、「一口だけいきましょう」と短く区切る方が通りやすいです。理想は自立支援ですが、落としどころは「事故らず、疲弊せず、必要量を確保する」ことです。
入浴・更衣:幻視や妄想がある日は“戦わない入浴”に切り替える
入浴や更衣は、DLBの地雷原です。被害妄想が強い日に無理に脱衣させようとすると、抵抗が強くなり、双方が消耗します。理想は本人の同意形成ですが、落としどころは「清拭、部分浴、日程変更」という現実的選択肢を最初から持つことです。予定通りの入浴にこだわる施設ほど、トラブルが増えます。入浴回数のノルマを守るために骨折させたら、本末転倒です。
排泄:便秘と起立性低血圧がある前提で組み立てる
排泄介助では、立位でのふらつきが最大の事故ポイントです。便秘がある人はトイレが長くなり、立ち座り回数が増えます。起立性低血圧がある人は、立ち上がり直後が危ない。落としどころは、移乗動作を急がせない、立位保持を短くする、必要ならポータブルや陰部洗浄を組み合わせることです。きれいにトイレで出す、に執着しすぎると職員の腰と本人の骨が持ちません。
夜間:徘徊や興奮は「説得」より「導線」と「安心」を作る
夜間不穏は、説得しても勝てません。本人の脳がそのモードではないからです。落としどころは、危険な場所に行けない導線、安心できる居場所、短い対応で再入眠につなげることです。例えば「一緒にお部屋を確認してから休みましょう」とルーティン化する。水分やトイレ、室温など身体要因も一通り確認する。夜勤が毎回違う言い方をすると、本人は混乱します。言い回しのテンプレを施設で決めると、夜勤者の消耗が減ります。
医療連携で押さえるポイント:現場が「報告すべき情報」
DLBは薬の調整が難しく、医療連携の質で介護負担が変わります。ただし、丸投げでは連携になりません。施設が報告すべきは、症状の有無より「いつから」「どの時間帯に」「どんな状況で」「どれくらい続くか」「薬変更との前後関係」「転倒や失神の有無」です。幻視を訴える回数、夜間の行動、食事摂取量、便通、起立時のふらつき、日中の傾眠。これらが揃うと、医師は判断しやすくなります。
また、抗精神病薬で悪化しうることは基準にも明記される重要点です(出典:McKeith IG, et al. Neurology. 2017)。現場としては「薬を出すな」と言うのではなく、「過敏性のリスクがある疾患なので、投与後の歩行、嚥下、意識、発熱、筋強剛を重点観察する」という姿勢が現実的です。観察項目を決めて記録するだけでも、施設の安全度が上がります。
本人らしさを生かす:DLBでできる支援の作り方
DLBの人は、波があるぶん「良い時間帯の能力」が残っていることがあります。ここを拾えると、本人の自己効力感が保てて、不穏も減りやすい。理想はパーソンセンタードケアですが、現場の落としどころは「短時間・短手順で成功させる」ことです。例えば、洗面は職員が全部やるのではなく、歯ブラシを持つところだけ本人にお願いする。食器拭きのような安全な役割を、調子の良い時間にだけ任せる。長時間の活動は疲れて崩れます。成功体験は小さく刻むのがコツです。
そして、職員側も「毎日同じ成果を求めない」ことです。波がある疾患に、均一なパフォーマンスを要求するのは、本人にも職員にも無理ゲーです。できた日は褒め、できない日は短縮し、事故だけは起こさない。現場としてはそれが最適解になりやすいです。
まとめ:DLBは「否定しない」「波で組む」「身体要因を拾う」で介護が回り出す
レビー小体型認知症は、幻視、認知の変動、RBD、パーキンソニズム、自律神経症状が重なり、介護が難しくなりやすい認知症です。アルツハイマー型の感覚で「説明すれば分かる」「昨日できたから今日もできる」と運用すると、事故とトラブルが増えます。
守るべきことは、幻視や妄想を論破しない、転倒は立ち上がり前に潰す、急変を進行と決めつけず身体要因を拾うことです。余裕のためにやると良いことは、勝てる時間帯にケアを寄せる、環境の地雷(光・影・反射・音)を減らす、夜間は気合ではなく安全設計と手順で守ることです。理想を知った上で、現場で回る形に落とし込む。



