始業前の朝礼や情報確認、着替えなど、勤務開始前に行われる業務(始業前労働)は多くの医療機関で日常的に行われています。これらの活動が労働時間として扱われるべきかどうかは、労働基準法の観点からも重要な問題です。この記事では、始業前の労働が時間外労働手当の対象となる条件や、法的な観点からの説明を詳しく解説します。
目次
労働時間の定義と法的観点
日本の労働基準法において、労働時間とは「使用者の指揮監督下」にある時間を指します。これは、業務命令に基づいている場合や使用者の管理下で行われる場合に該当します。
始業前の労働の実態
多くの介護施設では、以下のような理由で始業前に出勤・実態として業務を開始していることがあります。
- ユニフォームへの着替えや感染防止のための備品の着衣
- 朝礼や申し送り
- 情報収集やご利用者の容体確認
- 当日の仕事の段取り
- 出勤時の混雑を避けるため
- 精神的な余裕を持たせるため
労働時間としての取り扱い
始業前の活動が以下に該当する場合、労働時間として賃金支払いの対象となります。
業務命令によるものは労働時間
例えば、「自主的に1時間早く来て利用者さんの情報収集しなさい」という指示がある場合や、「うちの施設では20分前から朝礼と申し送りをするから必ず参加しなさい」などの指示がある場合には業務命令があるものとして労働時間として解釈でき、始業時間前でも時間外労働に含まれる可能性が高いです。
黙示の指示
職場の伝統や慣習により、暗黙の了解として早めの出勤が求められる場合もありますが、これも常態化している場合や、早めの出勤をしていないと注意を受けたりするような場合には勤務していると解釈できるので、時間外労働として取り扱われるか、雇用契約上の勤務時間を見直すことが適切と考えられます。
ケース・バイ・ケースの判断
紹介してきたように、基本的には業務命令として時間外に仕事をした場合には時間外労働として扱われますが、「自主的に早く出勤する」というケースも存在してしまいます。スタッフの性格によっては、早めに出勤して精神的なゆとりが必要だったりします。
このような場合には労働時間とならないケースもあります。重要なのは、その行動が実質的に使用者の指揮監督下にあるかどうかです。自主的に早く出勤して仕事を始めてしまうというようなことを誰かが当たり前のように始めてしまうと、他の人もプレッシャーがかかります。
指揮管理している管理者も自主的に早く出勤してきている人が「暗黙の指示だと思って仕事をしていた」などと訴えたりするリスクもあるので、基本的には自主的に早く出勤している人などに対しては業務命令をしていないことを明確に示しておくことが重要です。また、ゆとりを持って早めに出勤しておきたいというスタッフに対しては、早めに来ても休憩室などで自由に過ごして業務はしないようにというような注意も必要に応じて行うべきです。
介護事業でのユニフォームへの着替えは労働時間?
厚生労働省のガイドライン等を参考にすると、事業者が指定した更衣室で、指定された制服やユニフォームに着替えをしなくてはいけない場合、制服への着替え時間が労働時間に含まれます。ユニフォームで出勤OKの場合にはそもそも着替えが業務時間に入るかについてはあまり議論になりませんが、ユニフォームで出勤してはいけないという決まりを作っている場合には業務時間に含まれると考えられてもおかしくないので注意が必要です。
その他、更衣室が狭すぎて着替えの順番待ちで時間をずらして出勤しないとならないなどという場合は、労働者の職場環境としても不適切で、実態として職場に拘束される時間も長くなってしまうので改善が必要です。
業務時間の見直しの必要性
例えば、雇用契約上の通常の業務時間が9時から18時となっている場合、全員が常に30分以上早く来ないと業務が回らないようなことになっていませんか?もし、いわゆる定時の勤務時間より早く業務を開始することが日常的になってしまっているのであれば、始業時刻や雇用契約書そのものの見直しが必要です。
管理者や経営者は、従業員の労働条件や労務管理について十分に注意する必要があります。
まとめ
始業前の労働が労働時間と見なされるかどうかは、使用者の指揮監督下にあるかに依存します。これに該当する場合、時間外労働手当の対象となります。労働基準法の原則に立ち返り、適正な労働時間の管理を行うことが重要です。