介護施設での転倒・転落の予防策と発生後の対応マニュアル

転倒・転落は介護施設で最も発生頻度の高い事故のひとつです。骨折や頭部外傷などの重篤な結果につながることも多く、利用者の生活の質を大きく損なうだけでなく、介護職員にとっても精神的・法的なリスクをはらんでいます。一方で、適切な予防策とリスク管理によって防げる事故も多くあります。
この記事では、転倒・転落の原因とリスク要因の把握から、環境整備・ケアによる予防策、事故発生後の初期対応・報告・再発防止までの流れを介護職員向けに実務目線で解説します。
転倒・転落が起きやすい原因とリスク要因
転倒・転落の原因は大きく「利用者側の要因」と「環境・ケア側の要因」に分けて考えることができます。どちらか一方だけに注目するのではなく、両方の視点からリスクを評価することが予防につながります。
利用者側の要因
| 要因の種類 | 具体的な内容 |
|---|---|
| 身体機能の低下 | 筋力低下・バランス機能の低下・歩行の不安定さ・関節の拘縮 |
| 疾患・既往歴 | パーキンソン病・脳卒中後遺症・変形性膝関節症・骨粗鬆症・起立性低血圧 |
| 認知機能の低下 | 危険認識の低下・衝動的な行動・ナースコールを使えない・指示が入りにくい |
| 視力・聴力の低下 | 段差や障害物を認識しにくい・声かけに気づかない |
| 薬の影響 | 睡眠薬・降圧薬・利尿剤・抗不安薬などによるふらつき・眠気・起立性低血圧 |
| 排泄に関連する行動 | 夜間のトイレ移動・排泄を急ぐ行動・尿意切迫 |
| 転倒歴 | 過去に転倒経験がある利用者は再転倒リスクが高い |
環境・ケア側の要因
| 要因の種類 | 具体的な内容 |
|---|---|
| 床・通路の状態 | 濡れた床・滑りやすい素材・段差・コードや物が散乱している |
| 照明の問題 | 夜間の廊下や居室が暗い・トイレまでの経路が見えにくい |
| ベッド・車いすの設定 | ベッドの高さが合っていない・ブレーキのかけ忘れ・フットレストの上げ忘れ |
| 靴・履物の問題 | サイズが合っていない・底が滑りやすい・かかとのない履物 |
| ケアの不足・タイミング | 夜間巡視の間隔・排泄介助のタイミングが合っていない・一人での離床を見逃す |
| 職員の連携不足 | 申し送り漏れ・リスク情報の共有不足 |
どのようなリスクがあるのかあらかじめ分かっていると、後ほど紹介する事故の記録や報告(事故報告書)で原因や再発防止策を考える時に役立ちます!
転倒リスクのアセスメント
転倒予防の第一歩は、利用者ごとのリスクを正確に評価することです。入所・利用開始時はもちろん、体調変化・転倒歴・薬の変更・要介護度の変化があった際にも、改めてアセスメントを行うことが重要です。
アセスメントでは、歩行状態・バランス能力・認知機能・服薬内容・排泄パターン・過去の転倒歴・視力・履物の状態などを多角的に確認します。施設によっては転倒リスクアセスメントシートを活用して点数化し、リスクの高い利用者を可視化する方法を取っています。アセスメントの結果はケアプランや個別の介護計画に反映させ、職員全体で情報を共有することが不可欠です。
転倒・転落の予防策
環境整備による予防
転倒事故の多くは、環境を整えることで防げるものがあります。居室・廊下・トイレ・浴室など利用者が移動するすべての場所を定期的に点検し、危険箇所を取り除くことが基本です。
床の濡れは転倒の直接的な原因になるため、入浴後や清掃後は速やかに拭き取ります。夜間のトイレ移動に備えて足元灯や廊下の照明を適切に確保することも重要です。ベッドの高さは利用者の足が床にしっかりつく高さに設定し、使用のたびに最低位に戻す習慣をつけます。手すりは使いやすい位置に設置されているか、ぐらつきがないかを定期的に確認します。
車いすへの移乗前後はブレーキとフットレストの確認を徹底します。このひと手間が転倒防止に直結します。施設全体でチェックリストを用いた定期的な環境巡視を行い、気づいた問題点はすぐに報告・改善する体制を整えることが大切です。
ケアによる予防
環境整備と並んで重要なのが、日々のケアのなかに転倒予防の視点を組み込むことです。特に転倒リスクの高い利用者については、以下のような個別の対応が有効です。
夜間のトイレ移動が転倒につながるケースは非常に多いため、就寝前の排泄誘導を丁寧に行い、必要に応じて夜間の定期的な排泄介助を計画します。利用者が自分でトイレに行こうとする場合は、ナースコールを鳴らすよう繰り返し伝えるとともに、認知機能が低下している利用者には夜間センサーマットの活用も検討します。
筋力低下やバランス機能の低下に対しては、理学療法士・作業療法士などのリハビリ職と連携し、個別の機能訓練プログラムを取り入れることが根本的な予防につながります。起き上がり・立ち上がり動作が不安定な利用者には、その動作に合わせた介助方法をケアプランに明記し、全職員が同じ対応を取れるようにします。
服薬内容の確認も見逃せません。睡眠薬や降圧薬など転倒リスクを高める薬を服用している利用者については、服薬後のふらつきや眠気に注意し、就寝前後の移動に特に気を配ります。薬の変更があった際は看護師から情報を受け取り、介護職員全員で共有します。
履物・衣類の確認
利用者が使用する履物は、足のサイズに合ったもの・底に滑り止めのついたもの・かかとがしっかり固定されるものを選びます。スリッパやサンダルのようなかかとのない履物は転倒リスクを高めるため、施設内での使用を避けることが望ましいです。衣類のすそが長い場合は足に引っかかる可能性があるため、適切な丈のものを選ぶことも確認します。
転倒・転落発生時の初期対応
転倒・転落を発見した、または転倒した音を聞いた場合は、まず冷静に状況を確認することが最優先です。慌てて利用者を起こそうとすることが二次損傷につながることがあるため、以下の手順で落ち着いて対応します。
発見直後の対応手順
まず利用者に声をかけ、意識の有無を確認します。「大丈夫ですか」「わかりますか」と呼びかけ、反応を見ます。意識がない・反応がない場合は直ちに救急車を呼び、看護師・管理者に連絡します。
意識がある場合は、出血・頭部への打撲・骨折が疑われる部位がないかを視覚的に確認します。このとき、利用者を無理に動かしてはいけません。頸椎や脊椎を損傷している可能性がある場合に不用意に動かすと、神経損傷を悪化させるリスクがあります。
次に看護師を呼び、バイタルサイン(血圧・脈拍・呼吸・体温・SpO2)の測定と全身状態の確認を依頼します。看護師が到着するまでの間、利用者のそばを離れず、声かけを続けながら状態を観察します。
看護師・医師の判断により、必要に応じて救急搬送・受診の手配を行います。
発見直後の対応フロー
| ステップ | 対応内容 |
|---|---|
| ① 声かけ・意識確認 | 利用者に声をかけ意識・反応を確認する |
| ② 意識なし・反応なし | 直ちに救急車を要請し、看護師・管理者に連絡する |
| ③ 意識あり | 出血・骨折・頭部打撲の有無を視覚的に確認する(動かさない) |
| ④ 看護師を呼ぶ | バイタル測定・全身状態確認を依頼する |
| ⑤ そばで見守る | 看護師到着まで離れず声かけを続ける |
| ⑥ 受診・搬送の判断 | 看護師・医師の指示に従い必要な対応を行う |
頭部を打った場合の注意
転倒時に頭部を打撲した場合は、受診直後に異常が見られなくても数時間から数日後に症状が現れる「遅発性の頭蓋内出血」が起きる可能性があります。頭部打撲があった利用者については、その後24〜48時間は特に意識レベル・嘔吐の有無・頭痛の訴え・言動の変化などを注意深く観察し、異常があれば速やかに看護師・医師に報告します。この観察ポイントは職員間で引き継ぎの際に必ず申し送ることが重要です。
事故後の報告・記録(事故報告書)
転倒・転落が発生した場合は、施設の事故報告手順に従い、速やかに管理者・看護師へ口頭で第一報を入れます。その後、事故報告書を作成し、発生状況・発見時の状態・取った対応・その後の経過を正確に記録します。
事故報告書については、厚生労働省から全国で標準様式(テンプレート)を使用して市町村のへの事故報告を統一していくという動きがなされてはいますが、職場が独自に事故報告書を用意している場合もあるので職場のルールに従いましょう。
2021年3月と2024年11月に厚生労働省が事故報告書の全国統一のテンプレートをエクセルファイルで公表しました。
参考:介護の事故報告書 標準様式(エクセルテンプレート)市町村報告用
記録は「いつ・どこで・どのような状況で・誰が発見し・どのような状態だったか・どのように対応したか」を事実に基づいて客観的に記載します。推測や曖昧な表現は避け、観察した事実のみを書くことが原則です。
利用者のご家族への報告は、施設の方針に従い管理者または相談員が行います。家族への連絡は事実を正確に、かつ誠実に伝えることが信頼関係の維持につながります。重篤な場合や救急搬送が生じた場合は特に迅速な連絡が求められます。
一定以上の事故については、市区町村の介護保険担当窓口への行政報告が義務付けられています。施設の事故報告規程と自治体の基準を確認しておくことが必要です。
再発防止への取り組み
転倒事故が発生した後は、その原因を分析し再発防止策を検討することが非常に重要です。事故はケアの改善を行う機会でもあると捉え、個人の責任追及ではなく施設全体での振り返りを行う姿勢が大切です。
カンファレンスや事故検討会を開き、発生状況・環境・ケアの内容・当日の職員配置などを多角的に検討します。原因が明確になったら、ケアプランの修正・環境改善・職員への周知といった具体的な対策を速やかに実施します。対策の内容と実施状況はモニタリングし、効果を確認します。
また、転倒には至らなかった「ヒヤリハット」の事例も積極的に報告・共有する文化を作ることが重要です。ヒヤリハットの段階での対策が、深刻な事故を防ぐことにつながります。
参考:ヒヤリハットとは?医療介護での事例と対策、報告書の書き方
まとめ
転倒・転落は介護施設で最も多い事故のひとつですが、利用者のリスク要因を正確にアセスメントし、環境整備とケアの工夫を組み合わせることで、多くは予防できます。転倒が発生した場合は、利用者を無理に動かさず、意識確認・看護師への連絡・観察・記録という手順を落ち着いて実行することが重要です。
事故後の報告・家族連絡・再発防止への取り組みまでを一連の流れとして理解し、施設全体で転倒予防の文化を育てることが、利用者の安全と職員の安心な働き方の両方を守ることにつながります。
2024年4月・6月、2026年 介護報酬改定の情報
令和6年~8年 地域区分(介護)区市町村の等級一覧(2024年4月~)
介護保険区分支給限度基準額一覧(要支援・要介護)
New! 令和8年(2026年)介護報酬改定
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令和6年度介護報酬改定では、4月に変更となる内容と、6月に変更になる内容があります。例えば、訪問介護費の場合、基本報酬部分は4月から、処遇改善加算等は6月から変更という2段階での変更が生じることがあります。詳細は各記事に添付している厚生労働省のサイトからご確認ください。
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利用者負担軽減の仕組みの改定
補足給付(負担限度額認定)に関わる見直しは、以下のとおりです。
令和6年8月1日施行 基準費用額の見直し
令和7年8月1日施行 多床室の室料負担
